〜コロスを通して自分より大きなものを表現する〜「運命、あるいは神、あるいは宇宙」といったものを体感する機会は、科学技術の発展した現代社会では大きく減ってしまったように感じます。ですが自然災害や生きている中での理不尽さを感じる時に我々は人の力ではどうにもならない強い力を意識するのではないでしょうか?そういった大きなものと対峙する時、わたしたちも大きくあらねば対等ではいられません。わたしたちの中でこれら大きなものと対等に向き合える大きさのもの、それはわたしたちの感情です。わたしたちの感情は身体の大きさにとらわれず、大きさを自由に変えることができます。メロドラマが「人の運命」なら、悲劇は「宇宙の運命」です。どちらも大きな感情を扱いますが、その力の働く向きが異なり、それぞれの特色をもっています。悲劇は舞台のジャンルの中で最も大きいもののひとつですが、現代ではスタイルとして少々古いものとも言えます。これは言い換えれば、リニューアルされる必要性・可能性を持っているとも言えるのです。そこには取り組む意義が大いにあるのです。悲劇では時として、超常的な現象を扱います。古典では超常的な事柄を扱うのは演劇(預言者)であったり宗教でしたが、現代ではその役割を科学が担っています。量子力学をはじめとし、わたしたちの世界にはまだまだ解明されていない謎が多くあります。科学の領域では多くの疑問が解明され、また新たな発見によって別の疑問が絶え間なく生まれているのです。つまり悲劇と科学は「世界とは何か?」という疑問を解明しようとする役割において共通していると言えます。かの世界一有名な科学者が言うように、神秘の解明は芸術と科学という実践的な領域に委ねられているのです。“The most beautiful experience we can have is the mysterious — the fundamental emotion which stands at the cradle of true art and true science.” -Albert Einstein「神秘は私たちが経験しうるものの中で最も美しいー それは真の芸術と科学の出発点である原理的な感情である。」 -アルバート・アインシュタイン悲劇の中で利用される作用(力とその向き)の基礎的な構成を学び、それを現代の演劇表現で利用できる能力を身につけます。悲劇の中では欠かすことのできないコーラスの技術についても扱っていきます。そして悲劇のワークで、かつて演劇が担っていた「人間にとっての世界とは何か?」という疑問を通して、運命に抗おうとする人間の大きな感情を演じる技術を共に学んでいきましょう。