私はここに文章を寄稿するにはやや異質な存在で、これまで物理学や人工知能を研究してきたような”静”、”脳”の人間であり演技経験などは全くなかった人間です。なので下に書く感想も異質な角度からのものとなるかと思いますが、それでも多くの人に伝わる内容になるのではないかなと思っています。そしてそういった普遍性こそ、シアタースコラのすごいところだと思います。自分がシアタースコラで学びたいと思った理由は身体でこの世界を生きることへの興味です。今の社会を生きていると、こうしない、ああしなさい、こうするものだ、ああしないと無理だとか、納得感の欠ける固定された型ばかりが溢れてきています。しかし日常は”そうだけどそうじゃない”という矛盾に満ち満ちています。私はこの矛盾を乗り越え自分らしく生きていくには、今ここにある身体でそこに生まれる感情を”自然”と受け止め、流れるように生きていくことが必要と考えていました。ではそこにある自然の摂理とはどんなものであろうと興味を持っていた頃、安本さんと出会いこの人からなら何か得られるだろうという確信のもと、シアタースコラWSに参加しました。WSではフィジカルシアターやディバイジングなどの概念を糸口に、体の動きを生み出すもの、体の動きから生み出されるものの観察と実践を数多く体験しました。自分を表現するということが果たして主体的に行うことなのかということ、感情は何から湧き出てきて、何が自然な流れを形作るのかということを言葉によって新しい視点を得ることができたと感じています。そして何より身体を動かして今その場を自然に流れるという体験の一端を感じられたことが何よりの財産となりました。このような豊かな学びができたのもひとえに講師の安本さんによるデザイン、つまり、その場にいることや自分のままでいることへの安心感の授与と、自由さを損なわない表現の方向づけが素晴らしかったのだと思います。このようなデザインを下支えしているであろう安本さんの豊かな教養と多くの経験には本当に頭が下がります。文化がしっかり積み重ねられた西洋での学びをこのように日本で誠実に伝え根付かせようとしてくださる精神に心から感謝し、この努力が社会化するよう自分も繋いでいきたいと思います。「俳優として既存のフレームワークに入り込むのではなく、アーティストとして生きていく。」私にとってアートは矛盾に満ちた世界の中でそれでも一歩前に進むために、少しでも良くするために何ものかを生み出すことです。シアタースコラが掲げるこの理念がより多くの人に届き、皆が生き生きとした喜びに満ちた生を送れたらどんなにいいだろうと思います。舞台芸術という強力な装置を通じて、小さいのだけれどとても大きな気付き、勇気、そして仲間をシアタースコラは与えてくれると思います。俳優としてよりも人として何かを現してみたいと思う全ての人にお勧めします。